第32回日本義肢装具士協会学術大会

大会長挨拶

北海道科学大学
早川 康之
早川 康之

義肢装具士の職能団体は、1975年に製作技術者により設立された「日本義肢装具技術者協会」が発展的に解消された1993年に、法人格を持たない「日本義肢装具士協会」として新たに発足しました。これは1988年に義肢装具士が誕生してから5年後のことになります。その後、一般社団法人化を経て、2017年には「公益社団法人 日本義肢装具士協会」として認可され、今日に至っています。この半世紀を超える歴史の中で、数多くの義肢装具士や関連職種の皆様が、義肢装具に関する技術開発、効果や安全性の検証など、有効な義肢装具療法の実現に向けて、真摯な検討と実践を積み重ねてこられました。こうした成果は、義肢装具士のみならず、利用者のニーズを的確に捉え、開発に取り組んでこられた多くの皆様の努力の賜物です。

一方で、義肢装具療法の治療効果に関する「客観的な評価」は、国内外を問わず、いまだ十分とは言えません。2018年、Aoife Healyら1)によって行われたシステマティックレビュー(系統的レビュー)では、義肢装具療法の有効性や費用対効果について、明確な結論を導き出せる高品質な研究は存在しないと報告されています。すなわち、義肢装具療法のエビデンスは、いまだ十分に構築されていないのが現状です。その背景として、藤原ら(2014)2)は『古くから確立された装具療法であるがゆえに,(中略)コントロールスタディが難しく,また盲検化も難しい.装具療法が必要な患者に装具を用いずに治療することは,臨床的にも,倫理的にも困難である.』と指摘しています。さらに、現在の診療ガイドラインではランダム化比較試験(RCT)やメタアナリシスなど、高度な統計的根拠が重視されており、臨床報告を中心とする義肢装具の研究では、評価が難しいという課題も示唆されています。

近年では、各疾患に関する診療ガイドラインが策定され、それに基づいた治療が推奨されています。義肢装具療法の有用性を明確に示し、対象者の生活の質をいかに向上させるかは、義肢装具の適合を担う義肢装具士による臨床報告を基盤としたエビデンスの構築にかかっています。日々の業務の中で、義肢装具を必要とする方々に直接かかわる義肢装具士の皆様にとっては、エビデンス構築の必要性を実感しにくい場面もあるかもしれません。また、業務の多忙さから研究活動への取り組みに課題を感じておられる方も少なくないと思われます。しかし、今後の義肢装具分野の発展は、臨床に携わる義肢装具士一人ひとり、製品開発に尽力されているメーカー、そして評価技術を支える研究者の力にかかっています。

本大会が、これからの義肢装具療法におけるエビデンス構築の必要性と可能性を共有し、連携して未来を語り合う機会となることを願っております。皆様からの貴重なご発表とご参加を、心よりお待ちしております。

  1. Aoife Healy et.al, A systematic review of randomised controlled trials assessing effectiveness of prosthetic and orthotic interventions,NIH,13(3),2018
  2. 藤原俊之:脳卒中ガイドラインと装具のかかわり,義装会誌,31(3),149-151.2015